さっぽろの不動産屋さん ろんたいの備忘録

札幌で細々と不動産屋を営むおっさんの四方山話です。

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ウッドショックってなに? 不動産屋にも分かる一口メモ 

札幌も、毎日300人以上の新規感染者が報告され、6月20日まで緊急事態宣言が延長される見込みです。「なんちゃって登山部」でご一緒する医療関係者からは「病床の確保が難しい状況が続いているので、怪我だけはしないようにね。山もしばらくは行かない方が無難かなあ。普段から飲んでいる薬は切れないように多めにもらっておいた方がよいよ、病院側が対応できなくなる可能性あるから」といわれています。ああ、かなり医療現場は切羽詰まっているんだなあ、とちょっぴり身が引き締まる思いです。気候が良い季節になってきたのに、旬の食べ物と一緒にお酒を楽しめないのは、とても悲しい…。はよ、ワクチン行き渡れ!

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庭のたんぽぽ

<ウッドショック・・・コロナ禍の影響が、木材市場へ>

住宅市場へも、コロナ禍の影響は押し寄せてきています。昨年(2020年)の今頃は、インテリアの部材、特に トイレやバスタブ、システムキッチンなどが品薄ということで、納期の遅れや値上がりなどが問題となっていました。そうした樹脂加工品の多くが、コロナの発生源といわれる中国で生産されていたため、需給に大きな影響を与えたといわれています。中国でのコロナ禍の沈静化や、生産工場の地域分散化によって、昨年後半には、ほぼ正常化し、欠品や大きな納期の遅れなどは解消した模様です。

 

しかし、本年(2021年)3月ごろより世界的に木材が供給不足に陥り、価格が急騰しています。この現象は「ウッドショック」といわれ、建設・住宅業界では大きな問題となっており、業界団体による国交省林野庁への陳情なども行われています。

今回は、業界の端くれである不動産屋として、「ウッドショック」の原因や現時点での対応などをまとめてみたいと思います。

と、ここまで書いて、昨夜は寝てしまったのですが、今朝、新聞を読んで、「やられたー」と思わずつぶやいてしまいました。

札幌の皆様には、日経新聞よりも朝日新聞よりも読まれているであろう北海道新聞、その一面に、本日(2021年5月28日)「ウッドショック」の記事が掲載されていました。

www.hokkaido-np.co.jp

こんなん記事にされた日に、「ウッドショック」ってなに?てブログ書いても、安直にネタパクったって思われるだけじゃん。タイミング悪いなあ。結構、何を書こうかって悩んでいるんですよ、これでも。

ま、新聞記者も記事にしたい、みんなが気にしている題材に目を付けるだなんて、慧眼だわ、俺って、とポジティブに捉えることにしよう。せっかく調べたんだし・・・。

 

<「ウッドショック」 木材・建材の急激な価格上昇>

「シカゴ木材先物価格」では、20年4月1日は259.80ドルでしたが、21年4月23日は1372.50ドルとこの1年で約5倍に価格が上昇しています。

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日本国内でも、木材価格は「輸入材」「国産材」ともに急騰しています。日刊木材新聞によると、2020年春ごろの木材価格は底値に近い水準で推移していました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた景気低迷で木材需要も限られていたことが原因とみられています。

しかし、21年1月ごろからじわりと価格上昇の兆しが見え始め、住宅の梁(はり)用部材として使用する欧州輸入材「レッドウッド集成平角」は、20年8月から12月まで1立方メートルあたり5万2000円程度で推移していましたが、21年4月には6万5000円と昨年に比べ1.25倍に上昇しました。

「ツーバイフォー材」のカナダ産「SPF(トウヒ・マツ・モミ類)2×4」は、20年は1立方メートルあたり5万円で推移していましたが、21年4月には8万1000円の高値を付け、昨年比1.62倍の価格となりました。

日本は、全需要の約6割から7割を輸入材に頼っていますが、入手が非常に困難な状況になっています。問屋は代替用に国産材の仕入れを急いでいます。こうした需要の急増から「杉KD(人工乾燥)柱角」の価格がこの半年で1.4倍に上がる結果となりました。

 

<ウッドショックの原因は、コロナ禍による①需要増と②物流ネック>

こうしたウッドショックは、今回で3度目といわれています。1度目は1990年代、アメリカで絶滅危惧種のフクロウの保護に端を発した世界的な天然林保護・森林伐採規制が進み、木材の供給量不足が起こりました。2度目は2006年のインドネシアの伐採規制をきっかけに、リーマンショックまでの好景気を背景に住宅建設ラッシュによる重要の増大により木材の価格が高騰しました。

3度目の今回は、コロナの影響でアメリカから発生したとされています。

元々アメリカでは、2015年頃からミレニアル世代を中心に郊外型住宅の購入が増えていました。そこへコロナ対策として米政策金利を実質ゼロに誘導する政策が住宅ローン金利を引き下げたこと、テレワークが浸透したことで、郊外の住宅需要が一層増え、着工件数の増加に拍車がかかりました。ワクチンの普及による経済回復期待がそうした需要をさらに後押ししている状況です。こうした需要増が木材の価格を急騰させたといわれています。

また、コロナ禍によりステイホームを強いられるように生活様式が変化したことから、物流体系も大きな構造変換の時を迎えています。世界的なコンテナ不足の状況下で、2021年3月に発生したスエズ運河での大型コンテナ船の座礁事故は、サプライチェーンの大きな混乱を巻き起こし、木材の物流にも輸送用のコンテナが不足する事態を招きコストも上昇しました。そうした物流ネックも、ウッドショックの一因とされています。

 

<ウッドショックの建設・住宅市場への影響と業界の対応>

こうしたウッドショックによる木材の高騰、不足は、短期的なもので収まるのではという楽観視を許さない状況となっています。主な理由は以下の2点です。

アメリカに加え、中国もコロナ禍からの復興需要から木材需要が旺盛であること

・日本の国産木材へのシフトは、商流や生産体制・木材の種類や品質・助成金等の問題から短期的な対応は困難

そうした状況下では、建設・住宅業界でも、木材・建材の高騰や納期の遅れによる、竣工時期の遅れや値上げ、といった事態を想定しなくてはいけない状況となっています。

 

全国建設労働組合総連合(全建総連)では2021年5月18日に

「ウッドショックの影響による対応について」を取り纏め、ホームページで下記のように公表しています。

www.zenkensoren.org

この中で、「木材の価格高騰や調達が困難であること等により、事業者と建築主との間で混乱を来さないよう、できるだけ早めに建築主に状況を説明して合意を得ることが重要です」とし、建設請負契約を締結する場合に、今回の「ウッドショック」による場合の「部材・樹種の変更、納期の調整をお願いし、価格変更についても対応」することを記した「合意書」を締結することを推奨しています。

また、事業者の資金繰りの悪化については、所管の国交省に支援策の対応を求め、2021年5月17日付「住宅用木材の価格高騰・不足を踏まえた木造住宅供給事業者等における業務の対応について」という文書(下記リンク)を発行させています。

http://www.zenkensoren.org/wp/wp-content/uploads/2021/05/73fcdac6f7809145c8b623a49f2b68b5.pdf

 

けれど、国土交通省の文書の内容は、

・建設主には状況を早めに説明して混乱を生じさせないこと

・資金繰りについては政策金融公庫に相談すること

と、割と素っ気ない気がするのは私だけでしょうか?

 

<今後、完成前住宅を発注・購入する際に注意したいこと>

木材・建材の「ウッドショック」はどうもそう簡単に解消されるような気配はなさそうです。となると、これから着工するような物件は値上がりすることもあり得そうです。そのため、建設会社やハウスメーカーは、通常の建物請負契約の他に、前述の「合意書」の締結を要望するケースが増えることが想定されます。

海外の事業者との売買や請負契約では、かなり一般的な条項として「フォース・マジュール(Force Majeure)」条項があります。これはいわゆる「不可抗力免責」といわれており「戦争・暴動・洪水等の天災等の不可抗力により債務不履行となった場合はこれを免責する」という内容のものとなります。日本ではこうした所謂「天変地異」によるものが不可抗力と考えられていますが、海外では「自社工場の火災、ストライキ、原料・エネルギーの高騰や手当難」なども一般的に含まれるとされています。

たとえば「ウッドショック」により事前に契約していた木材が高騰した場合、日本の感覚では「そうはいっても事前に契約していたのだから数量・価格・納期は売主が責任を持つべき」と考えるのが一般的でしょう。日本の商社が世界でシェアを獲得してきたのは、そうした日本的な商慣習が顧客に受け入れられ信頼されてきたからかもしれません。しかし一般的な海外の売主は、1.5倍も価格が高騰するような「ウッドショック」のような事態では、割と平気で「不可抗力だから供給できない」としてしまうのです。

そうした状況ですから、ハウスメーカーや建設業界が、同様に施工主に対して、「仕方ないので、あらかじめ、工期や価格が変更することもあり得る、と同意しておいてください」と頼むのは無理もないのです。損することが分かっていて仕事を請け負うわけにはいかないですから。

ただ、施工主さまにとって、納得がいくかどうかは別ですよね。事業主ならばともかく個人のお客様にとっては、約束した金額や納期が変わっても仕方ないよね、といって頂くのは、相当大変なことだと思います。コロナ禍同様、ウッドショックも早く落ち着くことを祈るしかないですね。

以上