さっぽろの不動産屋さん ろんたいの備忘録

札幌で細々と不動産屋を営むおっさんの四方山話です。

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一括査定サイトに申し込めば、家は高く売れるのか?

本日(5月30日)札幌は、めちゃくちゃいい天気で、気温もなんと29.9℃まで上昇です。散歩していても汗が噴き出てきます。ついこの間まで、一桁の気温でストーブを焚いていたのですが、あっという間に初夏というにふさわしい気候になってきました。

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札幌市の新規感染者数は3名、その内院内感染によるものが1名、濃厚接触者経由が1名、詳細非公表が1名となっています。来週月曜日は6月1日、概ね全ての施設の営業が再開される予定です。このままコロナについては、収束に向かっていくことを願います。

コロナが収束しても、新しい「生活様式」として在宅勤務はある程度続いていくことになるのでしょう。弊社でも、テレ・ワークはすっかり定着してしまいました。というよりも、気が向いたら近所をお散歩する気ままな生活を、やめる気になっていないだけですかね。

 

<巷でよく見る一括査定サイト なん百万円も高く家が売れるって本当?>

テレ・ワークでは、パソコンの前で作業することが以前より多くなっています。そのため自ずとサイトや記事の端々に掲載されるバナー広告を目にする機会も増えています。個人のアカウントでつぶやくFacebookTwitterでも、企業による広告記事の掲載が多くみられるようになってきた気もします。

テレ・ワークが普及することによって、従来の営業活動や広告宣伝といった手法だけではなく、ネットでの広告の比率が上がってきているのかもしれません。もちろん、私自身が不動産やそれに関わることを検索サイトやブログで調べたりする機会が多いため、私が目にする広告は、不動産投資や株式投資、税金や金融に関する広告が増えるのは仕方のないことなのでしょう。

そうした広告の中でも、最近は特に「一括査定サイト」の広告が多くなっていると感じます。しかも単純に「一括査定サイト」そのものを最初から広告するのではなく、「相続した古い家をどうすれば」「空き家を有効利用する方法」「買い替えをスムーズに進めるためには」などという不動産の悩みに答える体裁となっている広告記事が最近のトレンドのようです。どの悩みにも最後には、「家を売却するのが最適な解決方法」であり、「最も高く売れるのは一括査定サイトを利用すること」で、しかも「無料」で一括査定サイトは利用できるとのことです。その結果、当初より400万円も高く売れました、600万円もご近所より高く売れました、是非ご利用ください、という結論になっていきます。

一括査定サイトってすごいですね。ほんとうに無料でそんなに高く売れる効果があるのでしょうか?広告の体裁自体、ダイエットサプリや健康食品の広告のようです。「個人の感想です」という注記が極小のフォントでどこかに書き加えられていそうな感じにもみえてきました。そもそも、不動産の価格査定とはどんなものなのでしょうか。

 

<価格査定とは>

「価格査定」とは、一般に、不動産屋(正式には『宅地建物取引業者』といいます)が、土地や戸建て住宅、中古マンションなどの不動産の売却依頼を受ける際に、【市場で売却できるであろうと見込む想定価格】「査定価格」を算出することをいいます。

売主が売却を検討するときに、いったいいくらでその不動産が売れるのであろうか、ということはとても重要な要素となります。、しかし、中古物件には公表された定価表のようなものはありません。同一タイミングで全く同一の物件というものも、不動産物件ではありえません。そのため、どのくらいの価格でその不動産が売れるのかという査定価格を算出することは、不動産に関する市況動向や物件に対する知識や経験が生きる、不動産屋にとって重要な業務の一つとされています。

また、重要業務であるからこそ、宅建業法34条の2第2項で、不動産屋は、価格査定などの「売買すべき価格または評価額について意見を述べるときには、必ず根拠を明らかにしなければいけない」(「根拠の明示義務」)と定められています。さらに国土交通省「解釈・運用の考え方」で、は、価格査定について、重要な点が4つ説明されています。

①価格査定の根拠は、「合理的」なものでなければならないこと

②不動産鑑定評価に関する法律に基づく「鑑定評価書でないことを明記すること」

他の目的に使用しないこと

④根拠の明示は、法律上の義務であるのでそのために行った価格の査定等に要した費用は依頼者に請求できないこと・・・「無料」であること

 

◆重要ポイント1 査定価格は、似たり寄ったりの価格に収れんします

価格査定は、不動産屋がそれぞれの経験値や計算方法・手法によって自由に算出する「市場で売却できるであろう想定価格」ですから、各々の不動産屋によって査定価格は変わってきます。しかし、法律は査定価格について、根拠を明示することを求めており、国土交通省はその根拠が合理的であることを求めています。そのため、不動産屋に対して、価格査定に際しては、公益財団法人 不動産流通推進センターの価格査定マニュアルを利用することを推奨もしているのです。

一つの物件に対して、根拠が合理的であるとはいえ、どのようなデータを採用するかはある程度ばらつきが出るため、想定した査定価格は、全く同じ価格になるとは限りません。しかし、同一の物件が同じ時期にどの程度の価格で売却できるか、という価格を、本来プロである不動産屋が想定する場合に、そうそう大きく変わるものではないはずなのです。合理的といえるデータを使い、同じ価格査定マニュアルや同様の査定手法を使いながら、他の不動産屋より著しく高い価格、もしくは著しく安い価格を査定価格とすること自体が、合理的な根拠を提示することが難しくなってしまうからです。合理的といえる査定は、強気・弱気といった経営姿勢や、地域やジャンルの得意・不得意などで多少の差はあれど、一定の価格レベルに収れんします。

 

◆重要ポイント2 査定価格は、買取価格でも売却保証価格でもない

一方で、査定価格は、不動産鑑定士による「鑑定評価」でもありません。不動産屋の単なる「想定価格」です。不動産屋が、査定価格との差額を補填してくれるような「保証価格」でも、不動産屋がその価格で買取してくれる「買取価格」でもありません。たとえ、実際の売買価格が査定価格より安くなろうが高くなろうが、不動産屋が責任を取る、ということも基本的にありません。

時々、査定価格と同時に買取(保証)価格を提示してくれる不動産屋があります。その場合、査定価格は市場で一般の需要家が買ってくれる価格ですから、買取価格はそこから不動産屋の利益や経費、リスク分を差し引いて提示されます。一般的に買取価格は、査定価格の70%~80%程度で提示される場合が多いようです。

 

◆重要ポイント3 査定価格は「無料」が当たり前

査定は、法律上の義務に基づく業務のため、数十件をまとめて査定するとか遠隔地への出張旅費など特別の経費が発生する場合を除き、「無料」が原則です。したがって査定価格が無料という事を前面に押し出す広告は、当たり前のことをお得だと宣伝しているともいえます。

 

 <一括査定サイトの利用で、家は高く売れるのか?>

 一括査定サイトとは、売主が、そのサイトで売却を検討している不動産物件の基本情報を登録すれば、そのサイトに加盟している不動産屋の中から物件を査定できる複数の不動産屋がまずは登録された情報だけで「机上査定」を実施し連絡してくれる、しかもそれは「無料」で実施されるというインターネットサービスのことです。売主は、連絡のあった査定の中から一番高い査定をしてくれた不動産屋を選んで、実際の仲介を依頼すれば、物件を高く売却ができる、という説明がなされています。なんだかいいことばかりの説明ですが、本当のところはどうなのでしょう?

 

一括査定サイトのメリットは、簡単・気楽なこと

一括査定サイトは、確かに便利な一面があります。例えば、「まだ売却を本気でしようかどうか迷っているけれどとりあえずどのくらいで売れるのかどうかだけは知っておきたい」という時や、また「本気で売却をしようと考えていても不動産会社に知り合いはいない」という場合には、かなり使いやすいサービスです。ただでさえ不動産屋は胡散臭い印象なのに、知らない会社に依頼するのも気が引けるし、ましてや複数の不動産屋に依頼して比較して安いところを断る、というのはかなりハードルが高いと感じる人が多いのではないでしょうか。そうした方にはすごく便利です。

一括査定サイトであれば、一度物件の基本情報をサイトに登録さえしてしまえば、あとは複数の不動産会社から連絡が勝手に来ます。もちろん無料ですし、顔を合わせたこともないわけですから、査定価格を見てから断るのも気楽です。簡単かつ気楽、これが最大かつ唯一のメリットだと私は思います。

 

一括査定のデメリット・・・信頼できない業者を選びかねません

もう一度、価格査定の説明をよく読んでみましょう。まず、一括査定サイトは「無料」をアピールポイントとしています。しかし、本来、価格査定はどこの不動産屋に頼んでも基本的に無料です。殊更「無料」をアピールするのは消費者である売主の不動産売買に関して無知であるということに付け込んだ商法といえるのではないでしょうか。

また、売主からは無料であるため、一括査定サイトの開発費・運営費は加盟している不動産屋から徴収されています。主に加盟料、サイト内広告料、紹介料から成り立ちます。売主からの査定依頼一本につき〇万円の紹介料を支払うという設定が多いです。不動産屋は、将来顧客になるであろう売主を確保するために、コストを支払って一括査定サイトに加盟しているのです。しかし、一括査定サイト経由の査定依頼は、査定価格を競争させられていることが前提でしかも気楽に依頼されるので、通常の査定依頼より圧倒的に成約に結びつく率が低い、のが問題となります。依頼が多くなればなるほど、経費も、回収できないリスクも、高くなります。それを回避して成約率を高くするためにはどうすればよいでしょうか。

査定価格を無理やりにでも高くして提示する不動産会社が多くなるということは考えられないでしょうか?そうした不動産屋にとっては、査定価格は責任を取るべき価格ではありません。とにかく売主の興味をひければよいのです。そして多くの売主はやはり高い査定価格に魅力を感じてしまうことは否定できません。

査定価格を不当に高く提示した不動産屋に仲介を依頼したところで、実際に物件が高く売れることはありません実際に売却できる価格は、市場価格、すなわち他の不動産屋が提示した査定価格レベルなのですから。価格が高いので売れないまま3ヵ月も市場に売却物件として出ていると「売れ残り物件」として周知されることになります。そうなると「価格以外にも問題があるのではないか」と敬遠され益々売却できなくなってきます。維持費もかかります。結局、「値こなし」または「こなし」といって価格を下げないと売れないと説得されて、当初の査定価格より大幅に値下げして売却せざるを得ないこととなります。そうした業界用語があること自体がそうした手口が実在することを意味しています。

<価格査定は、信頼できる不動産屋を見つけるステップ>

本質的には、査定価格は、同レベルに収れんするものです。本来は、高すぎる査定価格は、安すぎるものと同様、信頼できない・否定されるべきものなのです。査定価格を複数の不動産屋に依頼する意味は、一番高い査定をする不動産会社を見つけることではありません。それだけでは絶対家は高く売れません。一番信頼できる不動産屋を見つけるための作業なのです。そうしたことを理解して利用するのであれば、一括査定サイトを使いこなした、といえるのではないでしょうか。