【買主も売主もキャンセル自由? 買付証明書の効力】
今日の札幌は、昨日とは打って変わって風が強く寒い一日でした。今日の昼休みは土地の売却物件の現場を確認に行く予定があり、恒例の昼休みの散策は、夕方に延期。日が沈み寒くなる前にと、散歩に行きました。いつもは1万歩以上は歩くようにしているのですが、今日はさっさと帰ってきちゃいました。とはいえ9000歩は歩いていましたけど。
帰ってきた原因は、豊平川の川沿いが風が強く、時間が経つにつれて、どんどん気温も下がっているような気がして、歩くのが億劫になってきたこともあります。
もう一つの原因は、今日一緒に現地を確認に行ったお客様から買付証明書を頂くことができなかったからでしょうか。本来なら今日あたり買付証明書を出してもらえる予定だったのですが、図面以上に間口が狭く感じるということでこのままでは利用目的には叶わない、買うとすれば7割くらいの価格で指値をして買付証明書を出すことになるので失礼にならないかを含めて売主さんに打診してくれ、といわれてしまいました。
こちらも手数料をもらうお仕事ですし、価格交渉は普段から覚悟しているのですが、7割指値とは厳しすぎる…期待していただけに気づかぬうちにテンションが下がってしまったようです。せめてブログのネタにしよう、と気を取り直して前向きに生きていきます。
<不動産屋のテンションを左右する買付証明書 って何?>
買付証明書とは、不動産の売買取引で、購入検討者が、売主もしくは取引を仲介する不動産会社宛てに、購入したいという意思を表明するもの、とされています。法律に基づくような明確な定義はなく、商慣習上のものです。「購入申込書」等と称される場合もあります。
買付証明書には決まった書式などはありません。内容としては、
・購入希望の物件を特定できる内容
(所在、種類、地番、家屋番号、地積、床面積、構造など)
・購入希望者の住所・氏名
・購入希望価格
・その他希望の契約条件(決済条件、手付金、金融機関の融資の有無、その他)
・当該買付証明書の有効期限
などを記載します。契約締結に関して購入希望者側からの諸条件をつけたい場合には、買付証明書に記載しておく方が、交渉の論点がはっきりします。具体的な提案がまだ固まっていない場合には、項目を記載し「協議の上、双方の合意に基づいて決定する」等の文言を記載しておけばよいでしょう。参考までに弊社がお客様に差し上げるひな形を添付します。
<買主も売主もキャンセル自由? 買付証明の効力>
民法555条の規定では、売買は「財産権を相手方に移転することを約し、相手方が代金を支払うことを約する」ことで成立するとしています。しかし、不動産は生活に不可欠な財産でありしかも高額なものであるために、その売買は慎重かつ確実に取引が行われるべきものだとされています。そのため判例でも、不動産の売買は、①売買契約書の作成、②手付もしくは内金の授受、この2点を成立要件とするとしています。
買付証明書は、購入したいという意思の表明です。そして対象物件を特定する内容と代金が記載されていますから、買付証明書が提出されたことによって、売買契約が成立したのではないかと考えられることもあります。しかし、上記の通り、売買契約書の作成がされていないこと、買付証明書の提出後に購入希望者が売主と売買の詳細を交渉し双方の合意が成立して初めて売買契約が成立ということから、判例上も、買付証明書は契約の成立もしくは申し込みではないとされています。
ですから、買付証明書の提出後も、法律上は、購入希望者には契約をしなければいけない義務もありませんし、キャンセルも自由です。一方で、売主にも、買付証明書を提出した購入希望者に売却しなければならない義務はありません。また、一番最初に買付証明書を提出した購入希望者が、あとから買付証明書を提出した2番手の希望者より優先される保証もありません。買付証明書の提出は契約ではないのですから。売主は、買付証明書の提出された順番を優先して考慮する義務もないのです。
それでは、現実的な効力は、どのようなことがあるのでしょうか。以下のことが考えられます。
・正式に売買交渉をすることの申し入れ(冷やかしの類ではないという意思表示)
・売主側からも、買主が値引きを要望するのならば買付証明書での意思表示を要求することが多い
(値引き価格だけが独り歩きして価値を下げることを避ける)
・交渉の優先順位の確保(法的効力はない)
これらは法的根拠はないとされていますので、あくまで商慣習上の効力といえるでしょう。もっとも、買付証明書を出しても、キャンセルも自由だし優先順位もない、というのはあくまで法律上の問題だと言い換えることもできます。
<買付証明書は信頼の上に成り立つルール>
現実の商慣習では、買付証明書の提出はやはり重視されています。買付証明書を無視するような言動を特定の売主や買主が頻繁にする場合は、仲介している不動産会社もあわせて、業界内で信頼できない輩だと評判になってしまいます。買主はより良い物件を探すこと、売主はより良い条件で売却することが、売買の目的です。本気でよりよい売買を成立させようとすることが目的であれば、買付証明書の価値を毀損するような振る舞いは得策ではありません。
「ほかに売れてしまったら大変です。とりあえず、買付証明を出しちゃいましょう。大丈夫です。買付証明書は法的効力がありませんからキャンセル自由です。まずは買い付け出して交渉権を確保しましょう。価格が折り合わなければキャンセルすればよいんですから」
こんなセールストークの不動産屋は信用できません。一緒にじっくり検討してくれる信頼できる不動産会社を選ぶべきでしょうね。
以上